整体やそれに類する行為の違いというのは、はた目から見て分かりにくいかもしれません。
その中の一つに「あん摩」があります。

東洋・西洋の技術が日本に伝わり体系化されていき、現代では「あん摩マッサージ指圧師」の国家資格として有名です。
しかし、実はこの名称が「三つの技術」の結合によるものと知っている人は、一般人ではごくわずかかもしれません。
あん摩・マッサージ・指圧というのは、それぞれ全く別の技術なのです。

さらに言えば、あん摩や指圧の技術は、整体の分野でも応用されることがあります。
施術を受ける側も、身体に何らかの不具合を感じた場合、自分の症状に応じて適切な技術を選ぶ必要があります。

今回は、整体とあん摩技術の違いや類似点についてご紹介します。

あん摩とは、どのような技術のことを言うのか

そもそもあん摩とは、江戸時代から伝わる技術の一つであり、古来中国発祥の技術が用いられていると言われています。
具体的な施術の手法として、押す・もむ・さする・なでる・たたくといった手技を用いて、身体の変調を整えることを目的とします。

具体的な身体の変調としては、疲労・頭痛・肩こりといった比較的一般的な症状に加え、めまいや不眠・神経過敏・食欲不振・便秘・腰痛といった症状の改善にもつながる施術を行います。
心臓から遠ざかるように施術を行って、生体に刺激を与えることを目的としており、これを遠心性の手技と呼ぶこともあります。

マッサージと指圧はそれぞれどのような技術なのか

国家資格の中であん摩と同列に扱われる「マッサージ」と「指圧」ですが、具体的にどのような技術なのか、イメージだけでとらえている人が多いと思います。
これらも独立した技術であり、あん摩と対を成すもの・補完するものという関係を持っています。

まずは、マッサージについて説明していきましょう。
多くの人がマッサージという言葉の意味について、身体をもみほぐす行為だというイメージを持っているものと思います。

イメージ自体は決して間違いではないのですが、そもそもマッサージという名詞は医学用語でした。
また、西洋起源の技術であり、日本には明治の時代に入って来ました。

こちらはあん摩と逆の性質を持っていて、心臓に向かって直接皮膚に刺激を与えていく技術で、求心性の手技と呼ばれます。
血液・リンパ液の循環をサポートして新陳代謝を促し、循環器系・消化器系などの状態を改善させます。

続いては指圧についてです。
こちらはルーツをあん摩に持ち、その技術の一部である「圧迫法」が独自の発展を遂げたものと言われます。
武術や関節の運動法なども取り入れ、一つの技術として集大成したものです。

強く指でツボを押すイメージの強い技術ですが、概ねそのイメージが正しいでしょう。
親指・手のひらを使って、ゆっくり押す・速く押す・急に離すなどの技法を用いるのが特徴です。

あん摩・マッサージと比較したとき、手技としてはやや極端な印象を持つかもしれませんが、身体に何らかの刺激を与えて人間が本来持つホメオスタシス（恒常性）に働きかけるのは共通しています。

「あん摩マッサージ指圧師」の資格とは、種類は異なるものの同じ目的を達成するために構築された技術を統合し、国家資格としたものです。
整体院を開くにあたり、必ずしも全ての技術を習得する必要はありませんが、技術のルーツにあん摩や指圧を持つところは珍しくありません。

その意味では、現代の整体の先祖としての一面もあると言えるのかもしれません。

整体とあん摩とを比較した際、技術の違いは何なのか

ここで気になるのが、整体とあん摩とを比較した場合、具体的にどのような点が異なるのかについてです。
実は、非常に分かりにくい点ではあるものの、整体の技術は全国的に一貫したものがあるわけではないのです。

話の都合上、ここではあえて当院の技術を一度離してご紹介しますが、多くの整体院さんが考えている「整体」の概念というのは、以下のようなものだと思います。

『体を支える中心となる骨盤や背骨を整え、骨のズレなどを矯正することによって筋肉のコリや疲労をほぐし、体全体のバランスを整える』

具体的に上記の状態をどう実現するかと言えば、手技を使って身体全体のコリやゆがみなどを確認し、それを改善するために施術を行うかたちになります。
身体全体をチェックするように行うため、ときには自覚症状がまだ出ていない箇所を事前に見つけることもあるでしょう。

もちろん、見つかった問題点を悪化させないため、未然に対処することも可能です。
また、身体全体の血流が良くなるように促す効果も期待できるため、結果的にねんざなどの腫れが早くにひくケースも期待できます。

病院のように問題点だけを何とか解決する方法をとるのではなく、身体全体のバランスを見ながら体調改善につなげていくのが、整体の基本的な考え方です。

これに対してあん摩やマッサージというのは、アプローチがやや異なります。
人間の回復力を高める方向性は一緒ですが、どちらかというと筋肉の表面から体調改善を試みる技術です。

今回ご紹介した概要の限りでは、どちらかというと整体の方が根本的改善につながる技法に考えられます。
しかし、残念ながら整体に関する国家資格は現状存在せず、施術者の技術に大きな差が生じてしまう点は否めないのです。

よって、技術の違いをまとめると、整体は総合的に身体の調子を整えることが多く、あん摩は箇所を特定して施術を行うことが多い点に違いがあると言えそうです。

どんなときにあん摩を、どんなときに整体を頼るべき？

あん摩と整体との間には、用いる技術に特徴・違いがあるものと分かりました。
ここからは、どのようなときにあん摩・整体それぞれを頼るべきなのか、いくつか具体例をご紹介していきます。
原則として、選び方に正解はないものの、やはり状況に応じて選んだ方がよいでしょう。

あん摩を使うべき場合

あん摩を使うなら、主に筋肉のこわばりや身体の疲れ・筋肉痛をやわらげることを目的とすべきでしょう。
ある意味、体調としては軽度～中等レベルを想定しておいた方がよいかもしれません。

これは、あん摩自体がそもそも身体の表面をもんだり叩いたりする技術のため、身体全体のバランスを考えた施術を行うケースが少ないことが理由です。
体内の血液・リンパの流れを改善することを目的としていますから、明らかに体調不良の原因が分かっている場合に限られると考えておくと分かりやすいはずです。

その他、医療機関などから同意を受けて施術を受けるよう決めた場合も、あん摩（マッサージ）を利用するケースがあります。
よって、あん摩を選ぶかどうかを判断する場合、整形外科とも少なからず関連性があります。

例えば、筋肉の麻痺や委縮・運動機能に何らかの障害を認めるときは、その改善のためにあん摩の技術が用いられます。
むくみ・しびれがある人のために、血液やリンパ液の循環の改善を促したり、痛みや筋肉の緊張を緩和したりする目的で施術は行われます。

介護の訪問マッサージもその一つで、関節の動きや疼痛の改善・動作機能の回復といった目的があります。
対象者は、歩行が困難な人・寝たきりの人・その他マッサージの必要性が医師に認められた人となります。

ちなみに、訪問マッサージには健康保険が適用されます。
その場合は、医師の同意書が必要です。

整体を使うべき場合

整体を使うことを判断するのは、慢性的な体調不良が認められる場合が多いと考えられます。
肩こりをはじめとする身体のこわばりは、マッサージでほぐせるケースも多いですが、そもそも身体のパーツが本来の機能を果たせていないことから問題が引き起こされている可能性が高いものです。

より具体的に言えば、足のしびれや痛みが長く続いている場合や、腰痛が耐えられないレベルにまで発展しているケースが該当します。
このような場合、局所をマッサージしても気休めにしかならず、不調を起こしている原因を特定して対応する必要があります。

施術を行う整体師の技術による部分は大きいものの、ほとんどの整体師は、不調を訴える人ごとに対応する技術を持ち合わせています。
よって、具体的な症状なり病名なりに対応できる技術を備えており、それを売りにしているケースが多く見られます。

自分の不調に対応する技術を持っている整体師を選んだら、多くの場合は骨盤や骨のずれを矯正した後、筋肉のコリ・疲労をケアするというアプローチになります。
よって、具体的な不調が顕在化してから長らく続いた段階で、整体での施術を検討することになるでしょう。

悩ましい部分としては、いかに優秀な技術・実績を誇っていても、国家資格として認められる整体技術はないということです。
具体的に言うと、健康保険の対象とならず、全額自費になるということです。

施術の内容に自信があり、お客様が満足してくれたとしても、法律の面ではどうしても不利に働きます。
ただ、そのことが技術に直接影響するわけではありませんから、総合的に身体を診て欲しいと考えている人は、整体を選ぶのが賢明と言えるでしょう。

おわりに

以上、整体とあん摩、それぞれの技術に関して違いをご紹介してきました。
資格の優位性という点ではあん摩に軍配が上がるものの、そのこと自体は技術レベルを保証しているわけではありません。

自分の体調に応じて、どういったアプローチで解決に結び付けたいのかが、整体とあん摩とを選ぶ分かれ目になるでしょう。
単体での技術だけではなく、両方の視点から施術を行える人も少なからず存在しています。

どのような施術が自分の不調改善に有効なのかを考える一つの視点としては、それが局所的な症状であることが自分で分かっているかどうかです。
厳密に言えば肩こりも身体のバランスが崩れた結果そうなっているため、整体の分野ではあるのですが、もみほぐしに関して言えばあん摩の技術が重宝すると思われます。

もちろん、一人で判断できない場合は、まず信頼できる整体師に相談して、総合的な観点から身体を診てもらうことをおすすめします。