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骨や関節の分野で何らかの症状が発生しているときは、内臓の疾患と違って直接的なアプローチで改善を試みます。
当院であれば、骨盤の位置・骨や筋肉の動きを元に戻す方向で調整をかけていきます。
よって、原則として薬や専門的なメンタルカウンセリングは行わないのですが、今回ご紹介する脊柱管狭窄症の症例は、例外的に『お客様の思い込み』が症状を悪化させていいました。
今回は、思い込みが病状を悪化させてしまっていた件につき、その危険なメカニズムをお客様との対話から、体験談として紐解いていきます。
箕面市の田崎様との対話(70代)
今回お話するのは、大阪府箕面市にお住い・田崎様の例についてです。
主に、対話の中で問題に感じた部分を、私(髙木)が指摘する流れで話が進みます。
また、折々で考察もはさんでいます(要するに心の声です)。
もともと、急に痛みが増して歩けなくなったという自覚症状から始まったのですが、本人が深刻に考えすぎていて、直感的にそちらが危険だと感じてはいました。
ただ、初めてやって来たときには「思い込み」かどうかは断言できず、まずは身体をしっかりチェックすることからのスタートとなりました。
初回来院時の対話記録
- こんにちは。大丈夫ですか!?
田崎様 (息子さんに連れられ、カウンセリングルームまで歩いて来られる姿は前のめりで、かなり歩きづらそうにしている)すいません。ご面倒をおかけします。
- どういった症状ですか?
田崎様 腰が痛くて歩けないんです。病院では手術が必要と言われて……手術はしたくなかったから、こちらにお願いすることにしました。1年前までは普通に歩けていましたが、急に痛みが増して、今は5分歩くのがやっとなんです。(息子さん談)
- 急に痛みが増してきたのですね。そのような場合、転倒・昔のケガがきっかけになって痛みが増す場合があります。最近で1年の間に転んだり、ケガをしたりしたことは覚えていますか?
田崎様 尻もちも2~3回ついて、そのときに1回だけ頭を打ったんですよね。
息子さん それも関係あるんですか?
- 詳しくは細かく見ていく必要があります。ただ、おそらく関係しているものと思われます。
田崎様 そうですか……長くかかってもいいから、手術だけはやりたくないんですよね。
- そうですよね。できるだけお力になれるよう努力します。
<考察> 1回は頭を強く打ったと話があったため、この段階で身体のバランス機能に何らかの影響を与えたものと推測。 歩容(歩く姿)分析・全身の関節チェックを行う。 全体を見通した結果、骨盤だけでなく頚椎・肩関節にもダメージが入っていることが分かる。ただ、5分しか歩けないと本人が話す割には、歩き方・骨盤の動きは思ったほど悪くないと感じた。 おそらく、思ったより回復は早いと予想して、骨盤に入ったダメージを抜くための施術を試みる。 その後、術前と術後で体の様子を比べて「症状の悪化は、おそらく本人の思い込みもある」と確信に変わる。 |
- この調子ならだいたい3ヶ月くらいでずいぶんと歩ける体に変わりますよ。最短で6週間くらいでかなり改善されると思います。
田崎様 本当ですか!? いやーよかった! ありがとうございます!(驚きと嬉しさの表情)
- 痛みを感じたら患部を氷のうでアイシングしてください。また、先ほどお教えしたように、正しい歩き方を意識して、毎日できる範囲で歩いてください。コルセットはかえって動きを悪くするので、可能ならば外して生活するようにしてください。
田崎様 分かりました。ただ、ちょっと不安なので、杖を使いたいのですが……。
- 杖は片方の手でつくものなので、使い続けていると体の傾きを作ってしまいますから、背骨が湾曲するおそれがあり治りにくくなってしまうんです。
田崎様 そうですか……。
- ご不安でしたら、ノルディックウォーキング用のポールがありますので、それをお貸しします。スキーで使うストックのように、左右両方の腕で身体を支えますから、杖よりも安心できますよ。
田崎様 ありがとうございます!ありがたく使わせていただきます。
2回目(3日後の午後)
- こんにちは。その後いかがですか?
田崎様 いやぁ、驚きました!先生に診てもらったら、次の日20分歩けたんですよ!整形(外科)の薬、リリカとかもらったんですけど、結局飲んでないんですよ。待合室で名前呼ばれたとき、コルセットも外してしまいました。
- それはすごいですね!ご家族の方は驚かれたんじゃないですか?
田崎様 主人に「見違えたね」って言われましたよ!息子なんか半信半疑で「無理してないか?」って聞くんです。朝もコルセット外して歩いてみたんですけど、意外と大丈夫で。
- 無理もありませんよ。念のため、もう一度歩く姿などを確認させていただきますね。
<考察> 再度、歩容(歩く姿)を観察。 初診の時とは違い、胸を張って自信を持って歩かれている。 やはり、本人の思い込みで症状を悪化させていた可能性は少なからずあるだろう。
骨盤や関節の傷やダメージの検査を再度行う。 前回よりはしっかり足の踏ん張りはできているようだが、ダメージはまだ残存している。 ただし、これは想定内である。
骨膜(骨の表面の膜)に傷が入っている場合、最短でも修復に6週間はかかる。 ※(ちなみに、骨折も概ね同じである。) 傷が入っていて問題となるのが、関節の側にある膜から、関節液(関節で油のような役割を担う)が十分に出なくなることである。 ※(病院で行うヒアルロン酸注射は、人工的に作られた関節液(滑液)である。)
これも関節に滑らかさやクッション性を与えるが、性能でいうとヒアルロン酸と自分の関節液(滑液)では10倍違うと言われる。 よって、やはり自分で関節液を出せることが完治には重要である。 |
- 身体全体を診て、状態はかなり良くなってきているものと考えられます。ただ、おそらく骨膜に傷が入っていて、関節がしっかり働くための「油」が切れている状況です。
田崎様 じゃあ、ゆくゆくは手術とか……。
- いえ、人間の身体には自然治癒力がありますから、骨膜の傷を修復するのに6週間ほどかかりますが、その後は大分良くなると思いますよ。おそらく、ヒアルロン酸注射という言葉を聞いたことがあると思います。注射で油をさすこともできるんです。こういった油は身体の中で作ることができて、「関節液(かんせつえき)」とか「滑液(かつえき)」とか言うんですが、骨膜の修復に伴い自然に出せるようになりますから、安心してください。
田崎様 そうですか。できるだけ早く歩けるようになりたいです。よろしくお願いします。
- 分かりました。ちなみに当院では、最短で1ヶ月集中コースというのを設けております。期間中はどんな施術も受けられるフリーパスのようなものなので、6週間で改善させることを目標にしましょう。これから、2~3日間隔でいらしてください。
田崎様 分かりました。ありがとうございます!
3回目~6回目
- こんにちは!大分元気になられましたね!
田崎様 おかげさまで。本当にありがとうございます。連続で30分は安定して歩けてきたんですよ。まだ何だか突っ張った感じはあるんですけど。
- おそらく、筋肉が過剰に緊張しているものと思われます。これは、筋肉の土台となる骨・関節が安定してくると解消されます。施術後に、関節・骨を強くするトレーニング方法(骨トレ)をお教えしますね。
田崎様 ありがとうございます。
- それと、靴が合わないと、なかなか正しく歩くのは難しいです。オーダーメイドの靴や中敷きを使ってケアする人もいるくらいですから。こちらもお教えしますね。
<考察・指導> 筋肉が硬直しているときは、なぜそうなっているのかを考える必要がある。 田崎様の場合は「靴」選びに問題があると判断し、ウォーキング専用靴を選んでもらうようアドバイスした。 ウォーキングシューズには足の負担を減らす機能があり、ヒモをしっかり締めれば足の本来あるべきアーチができる。 その状態で歩くことで、正しい歩き方を実践できるのだ。
このとき、1足だけでは片減りする。 よって、クセの予防のために最低3足用意しておくことをすすめている。 状況は良くなってきている。 やはり、ご自身が思っていたほど、病状は悪くないのかもしれない。
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7~12回目(1ヶ月後)
- こんにちは。今日でちょうど1ヶ月になりますが、いかがですか?
田崎様 おかげさまで40分以上歩けるようになりました!足も冷やして、骨トレもやって。ご飯作ってるときも痛まなくなりました。
- それは良かったですね。さっきの検査でも、関節・軟骨の傷が良くなっていているようなので、そろそろ、通院間隔を1週間にしましょう。あとは、背骨がちょっと気になるので、そちらも調整しますね。
田崎様 いつもありがとうございます。手術しないで本当に良かった……。
<考察> これだけ状況が見る見るうちに改善しているのだから、おそらく本来は手術をすすめられるような症状ではなかったものと推察される。 やはり、手術という言葉が重荷になってしまったのかもしれない。 背骨で気になる部分として、すべり症や側弯のアプローチを行う。 当院では、背骨のねじれ・せん断力(引き離す力)によって、背骨が雑巾のように絞られている状態が、いわゆる「側湾症」・「すべり症」になっているという見解だ。
また、以前田崎様が足に不安を感じていたことから、靴の選び方・履き方などをお伝えした。 これは、以下のような理由からである。
この2つの力がねじれを生んでいるため、それぞれにかかっている過剰な力を抜かなければならない。 身体は、そのすべてがつながっているのだ。 |
2ヶ月目
-こんにちは。もう、ほとんど自分でできそうですね。
田崎様 はい。症状自体は出るんですが、冷やしたり身体を動かしたりして落ち着けられるようになりました。
-良かったです。今度は、前に頭を打った部分の調整を行いますね。首の骨トレもありますから、そちらも覚えていってくださいね。
3ヶ月目
-こんにちは。痛みはほとんどありませんか?
田崎様 おかげさまで、日常生活は全く問題ありません。雨の日以外は朝必ず歩いていますよ。公園でも「まるで別人だね!」って言われます。
- 田崎様の努力があってのことですよ。本当に素晴らしいです。あとは、転倒・ケガにさえ気を付けていれば、これからも歩き続けられるはずです。
田崎様 先生のところでお話を聞いていて、何で痛くなるのかが分かって、それをどうやって修正すればいいのか分かれば、自分なりに対処できることが分かりました。本当にありがとうございました。
- それさえ分かっていただければ、当院としては何も言うことはありません。こちらこそありがとうございます。
今回の例で分かったこと
今回お話に出てきた田崎様は、これからの予防・リスク回避に加え、側湾症やすべり症の変形も治したいというお話を受け、現在は2~3週間に1回のペースで継続的に通院されています。
ただ、年齢を考えると、ここまでスピーディーに回復するケースは特別で、最初にいらした時にはそもそも『重大だと思い込んでいる状況』に問題があったのではないかと推察されます。
つまり、今回の症例を一言でいうと、田崎様は【逆プラシーボ効果】のような状況だったのだろうと考えられます。
おそらく、手術という言葉から、悪い方に思い込みが傾いたのではないでしょうか。
プラシーボ効果とは
プラシーボ効果として知られているのが、風邪薬とビタミン剤の話です。
お医者さんが「これが風邪に効きますよ。」と言ってビタミン剤を処方してくれたとしましょう。
しかし、ご承知の方も多いと思いますが、実際にはビタミン剤を飲むだけで風邪が治ることはありません。
それでも症状が劇的に改善したとしたら、それは『お医者さんが出してくれた薬だから効く』と頭や身体が反応したからで、薬の直接的な効果ではなく『当人の思い込み』で症状が改善したものと推察されます。
これは、実は悪い方にも働いてしまうことがあります。
田崎様の例を、もう一度思い返してみましょう。
私が見た限り、田崎様の身体には『手術が必要なほどの深刻なダメージ』はありませんでした。
しかし、病院では判断がつかなかったのか、結果的に「手術しないと歩けなくなる」と言われ、おそらく『そんなに悪いのか……』と将来を強く悲観(思い込み)してしまったのでしょう。
コルセットで患部をガチガチに固めれば、当然症状は悪化しますし、心に加わったプレッシャーもかなりのものだったと想像されます。
病院で「手術しないと歩けなくなる」と言われたがために、それを強く思いこむことによって、現状の病態よりも悪いと思ってしまい、コルセットでガチガチに固めて心身ともに調子を崩した可能性が高いと思われます。
実際、当院の他の例でも、脊柱管狭窄症とすべり症を合併した方は多く、何年も患っていて5分も歩けない日々がずっと続いている場合、数回の施術と指導だけで数十分も歩けるようになれる方は少ないのです。
田崎様の回復が早かった理由
本来、側湾症やすべり症を回復させるためには、何年もかかるものです。
鍾乳洞のように変性してきているので数ヶ月単位では無理があり、変形が高度の場合は数年かかることさえあります。
ただ、変形と症状は切り離して考える必要があり、田崎様が例外的に回復を早めた理由は、1年前より以前は『よく歩いていた』ということ部分にあります。
当院の方針として【20代の時のように歩けるようになる】というものがあり、施術後に歩けるようになってくれば、自然とその人の動けていた時代の体に近づいていくことは、数多くの例で実証できています。
もちろん、田崎様の例のように、やがては日常生活にも支障はなくなります。
自分自身の努力も必要になり時間もかかりますが、最終的に骨や関節も再構築されますから、姿勢・体型を昔の状態に戻すことは決して不可能ではありません。
くれぐれも、お医者さんの言ったことを『鵜呑み』にしないよう、気を付けてくださいね。
おわりに
今回のことで、改めて考えさせられたのは以下の2つです。
- 医者が放つ言葉は、患者さんの精神状態に良くも悪くも大きく関与するということ。
- 世間一般では難治性と言われている疾患でも、昔からの「活動量」や「歩行量」によって経過の進み方がまるで違うこと。
何の根拠もなく「すぐ良くなる」と誇張する表現には問題があるものの、必要以上に不安を煽ることは体に悪影響を及ぼすことがよく分かりました。
また、動けているうちに正しい身体の使い方を教えることで、体調の改善が早まることも再認識できました。
もし、医者から手術を提案されたり、今後を不安にさせるような発言があったりした場合は、セカンドオピニオンではありませんが、医者以外の視点から解決策を模索することも大切です。
当院では、皆さんにとって最善の解決策をご提案できるよう、これからも精進する所存です。最後までお読み頂きありがとうございました。