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坐骨神経痛が生まれる原因は、明確に特定できないことも珍しくありません。
仕事中の運転などで痛みを感じながらも、その原因をはっきりさせることができないケースもその一つです。
プライベートならともかく、毎日車に乗る立場の人間としては、運転するたびに痛みに耐えなければならないのは辛いところ。
しかし、車の運転は極端に強い力が身体にかかるわけではなく、間違った姿勢を長時間保つことで痛みが引き起こされるケースが多いことから、姿勢を正して痛みが軽減された例も少なからず見られます。
今回は、坐骨神経痛によって運転を苦痛に感じているドライバーのために、運転中に坐骨神経痛が発生する原因・痛みを軽減する正しい姿勢のとり方などについてご紹介します。
運転中に坐骨神経痛が発生する理由
まずは、運転中に坐骨神経痛が発生するのはなぜなのか、その理由を紐解いていきます。
車は座って運転するものですから、その点にヒントが隠されていると言えそうです。
当院における、車・乗り物による腰への影響の見解
運転中に動かす身体の部位は、ハンドルを握る手とそれを支える腕・ペダルを踏む足がイメージしやすいでしょう。
しかし、これらの動きを根本で支えているのは腰や背中であり、その腰や背中を支えている車のシート越しに、振動の影響を身体が受け続けています。
車や乗り物などに乗っているとき、腰痛をはじめとした坐骨神経痛を発症・悪化させる大きな理由について、当院では『振動によって、仙腸関節にギャビング(ズレ)が起こり、関節が離開する』ことが原因だと考えています。
自転車にも同じことが言え、座っている状態はもともと骨盤・坐骨が立ちにくい状態であることから、ダイレクトに衝撃を影響を受けます。
車の運転・乗車の場合、足を浮かせている状態なら、さらに骨盤は不安定になりやすいでしょう。
仙腸関節は、ネジの様な構造をしており、機械と同様に振動によってネジが緩みます。
長く乗り続けていると、慢性的に締まりがルーズな状態になる・関節がきちんと締まっていない状態が続くのです。
すると、振動による下からの衝撃で摩擦が生まれ、その摩擦熱から身体に痛みを引き起こします。
ちなみに、このようなダメージは「乗り物のサスペンション」の性能にも左右されます。
バスなどであれば、立った状態であれば下からの衝撃を足首・ひざ・股関節で減衰してくれますが、バスの運転手は座っているため、サスペンションの性能がそのまま腰に反映されます。
※参考URL:http://www.shiga-med.ac.jp/~hqpreve/kyouiku/socmed_fw/pdf/2006/2007_8.pdf
よって、当院では、
『乗り物の振動によって、ネジ様の構造をしている仙腸関節に緩みが起こり、ガタガタして摩擦が増えてしまい痛みが生じる』
と考えていることから、車の運転は坐骨神経痛にとって非常に憂慮すべき問題と理解しています。
車のシート自体を変えてしまえば確実だが……
仮に、本気でシートの力だけで坐骨神経痛の改善を試みるなら、小細工なしでシートを変えてしまうのが手っ取り早いはずです。
シートベルトをして身体を固定しながら、車を運転する際の振動・衝撃をシートにある程度吸収させて運転するからこそ、シートはドライバーの身体を守る機能を発揮できるからです。
日本を代表するレーサー・土屋圭市さんが、ル・マンのレース中に尾てい骨付近を疲労骨折した理由の一つとして、本人の身体に合ったシートをレースの都合上用意できなかったことが挙げられます。
自分の身体に合わないシートで長時間走り続けることは、ドライバーの身体を次第にむしばんでいくのです。
しかし、トラックを運転する場合など、一台の車を複数人で運転する仕事の場合、自分の都合でシートを取り換えることはできません。
よって、取り外しできるクッションや腰枕などを使い、自分にとって理想的なドライビングポジションを保つ努力が求められます。
ドライバー用クッションの種類は数多く、主に腰を支える機能を持つサポートクッション・正しい姿勢を作る座布団型クッション・肩や背中までサポートするカーシートを覆うタイプのクッションなどが売られています。
自分がどの部位に不調を感じているのかによって、選ぶシートの種類も変わってきますから、普段どこが特に痛むのか・どこをかばっているのかを自覚した上で、よく注意書きを読んでから試しましょう。
症状を緩和する時間を設ける
長時間運転する仕事で特に言えることですが、意識してこまめに休憩をとることが大切です。
長距離ドライバーの場合、どうしても早く目的地に到着したいという気持ちから、休憩がおざなりになってしまうことも多いはずです。
時間を作り、以下のストレッチで腰を伸ばし、負担を最小限に抑えることを試みましょう。
①シートに座ったまま、背中と両足を伸ばして座面に座る。 ②右足で左足をまたぐようにして、足の裏を床につけるようにする。このとき、腰は浮かさないようにする。 ③手順②の状態のまま、腰・太ももの後ろ側が伸びるように身体をひねる。左右両方行う。 |
長い信号の合間にもできますから、時間が空いたら取り組むようにしましょう。
また、長時間運転中の高速道路のSAなどでは、なるべく歩いたり患部を冷やしたりして、痛みの軽減に努めましょう。
MT・ATの違いが響くこともある
車独自の事情として、坐骨神経痛の症状に少なからず関係してくるのが、車のトランスミッションの問題です。
昔はトラックや商用車と聞くとMT車が主流でしたが、現代ではAT車・セミオートマ車などがトラックでも採用されるようになりました。
それぞれの車の特徴を理解し、正しいドライビングポジションを意識することで、身体のバランスを整えることにつながります。
運転教習所で習った知識も含まれますが、身体のためにもう一度復習してみましょう。
そもそも、トランスミッションのMT・ATとは何か
中古車を購入する際など、MT車・AT車といったカテゴリ分けを見ることがあります。
何となくイメージはできると思いますが、念のため概要を説明します。
▲MT車(マニュアルトランスミッション)
MT車のMTとは、マニュアルトランスミッションの略称です。
これは、運転する側が変速比を手動(手足)で切り替える機能のことで、AT車が広く普及するまでは日本でも一般的でした。
左足でクラッチ・右足でアクセルを踏む形でギアを変えるため、左右の足をバランスよく使えるのが特徴です。
▲AT車(オートマチックトランスミッション)
AT車のATとは、オートマチックトランスミッションの略称です。
MT車が自力で変速比を変えるのに対し、AT車は車速・エンジンの回転速度に応じて変速比を自動で切り替える機能を備えています。
アクセルを踏むだけで、自動で最適なギアへと導いてくれるため、運転手はブレーキも含め右足だけで運転が事足ります。
ATは楽だが身体に悪い
一見すると、ATの方が動きが少なく、身体への負担は少ないように感じられます。
事実、運転がMT車よりも楽になることは確かですが、身体にとっては真逆の負担を強いられているのです。
右足だけを使うAT車は、身体が楽な分だけ自然とシートから身体が逃げます。
そして、多くのAT車ドライバーは、運転慣れするにつれて、MT車でクラッチが配置されていた位置にある「フットレスト」を使わなくなります。
理由として、フットレストを踏み続けることに疲れる・手前に足を置いた方が楽なことに気付くといったものが挙げられます。
また、シート横にアームレストが付いているような車は、楽な姿勢を追及していくうちに、次第に左ひじを後ろに引いて片手運転になるケースが多く見られます。
こうなると、顔は前を向きながらも身体はずっと左側を向いているような形になり、結果的に左右のバランスが崩れ、腰痛となってしまうのです。
AT車を運転するなら、左足をフットレストから離さないよう、できるだけ意識して運転することを心がけましょう。
MTは坐骨神経痛に良い?
このように書くと、逆にMT車は坐骨神経痛防止に効果的だと考える人もいるかもしれません。
もちろん、MT車だからといって、一律に坐骨神経痛を防止できるわけではありませんが、運転時の負担を減らすという意味では一役買ってくれるでしょう。
MT車は、速度に応じて最適にエンジンを回転させるためのギアチェンジを、クラッチワーク・アクセルワークで実現します。
クラッチを踏んだことがある人なら分かると思いますが、クラッチはそれなりの重さがあるため、踏み込むとその反動で身体がシートに押し込まれます。
すると、自然に腰とシートが密着し、正しい姿勢を維持できるようになります。
このことから、相対的にMT車の方が腰への負担が少ないと考えられているのです。
どのようにして姿勢を正すか
最後に、運転中の自分の姿勢を正すにはどうすればよいのか、自分で注意できる点をいくつかご紹介します。
こまめにストレッチ・休憩を取り入れることも大切ですが、そもそも身体に負担のない体勢を維持できるなら、その方が効率的です。
運転を始める際には、できるだけ身体に負担をかけず運転できるよう、ドライビングポジションを調整することが大切です。
事細かくドライビングポジションを決めようとすると、かえって不自由に感じてしまうため、最低限これだけは避けたい例をご紹介します。
座り方が浅く、シートの奥から腰が離れた状態を止める
ソファなどに座る要領で腰を離してしまうと、万一に備えブレーキを踏んだ際、身体が後ろに下がってしまいます。
また、視線の位置も低くなりがちで腰にも負担がかかり、視界も悪くなる傾向にありますから、できるだけ深く腰掛けることを意識しましょう。
ひじ・ひざを伸ばさない
運転中、ひじやひざを曲げたまま運転することで、手足が何となくだるく感じてしまう場合もあるでしょう。
しかし、ハンドルから離れて運転する姿勢をとると、ハンドル・アクセル・ブレーキ・クラッチから離れ過ぎてしまうことから、諸々の運転操作に支障をきたします。
坐骨神経痛の痛みもあいまって、障害物・動物などを認めたときの急ブレーキがしっかり踏めなかったり、ハンドルを素早く切れなかったりするおそれがあるため、腕・ひじが少し曲がる位置を意識して、シートスライドを前後に調整しましょう。
前のめりの姿勢に気を付ける
できるだけ前を見ようと注意するあまり、顔や背中が前のめりになっているドライバーも多く見られます。
これはかえって視野を狭めるおそれもあり、首や背中に負担をかけます。
背中と腰をシートに密着させて運転することを意識し、少しでも痛みを軽減できるようにしましょう。
おわりに
自力で姿勢を正そうとしても、運転中は痛みのせいで身体がいびつに凝り固まってしまうことがあります。
そのようなときは、自分の力だけで何とかしようとせず、整体の力を借りることも大切です。
首・背中・腰の位置を逐一意識しながら運転するのは、かなりの注意力・努力を必要とします。
姿勢に関係なく痛みが目立つようになったら、まずは身体を点検してみましょう。